八ヶ岳縦走

藤井 諭

2008年5月3日(土) 晴 松江〜美濃戸山荘

 松江駅を朝出発し、名古屋、塩尻経由で中央線茅野駅にて東京の友人と合流する。15時半のバスに乗って残雪の八ヶ岳連峰を眺めながら登山口となる美濃戸口まで。登山届けを済ませ、道の所々に残雪を見ながら歩き、17時半に美濃戸山荘に到着した。私は松江からJRで7時間半だったが、浜松から車で来た別の登山客は、連休の渋滞に巻き込まれ7時間かかったとのこと。山菜てんぷらの夕食に舌鼓を打ちながら、友との再会を喜び話が弾んだ。

 

5月4日(日) 晴 美濃戸山荘〜赤岳〜横岳〜硫黄岳〜本沢温泉

 朝起きて外を見ると晴れ渡り、今日は登山日和だ。6時半発で間もなく一面の残雪となる。右に阿弥陀岳を仰ぐと、25年前の記憶が蘇ってくる。2時間かけて到着した行者小屋は、多くの登山客で賑わう。ここからピッケル、アイゼンの世界と変わる。聳える赤岳、横岳、そして阿弥陀岳を見上げると首が痛くなる。文三郎尾根は他のいくつかのパーティも加わり賑やかだ。登るに連れて視界はぐんぐん広がり、遠く北・南アルプスの山並みが白い。残雪の権現岳が美しく、その頃の山仲間のことを思い出す。小海線から夏に権現岳経由で赤岳に登った25歳の頃がなつかしい。

赤岳直下の雪面はピッケル・アイゼンをきかせ、又覗きで真直ぐに登る。高さ2889mの狭い山頂は10人くらいで混んでいた。水平線には残雪の南アルプスから北アルプスまでクッキリ。眼下には緑に囲まれた行者小屋と赤岳鉱泉が手に取るよう。コルへの急坂はアイゼンをきかせて慎重に下った。程なく地蔵尾根への分岐となり、大半の登山者がここから下る。そのため横岳への縦走ルートは登山者が減り、急に静かとなる。日ノ岳の登りは股覗きの雪壁、左がスパッと切れた下り気味のいやなトラバース、急登のクサリ場と続き、いずれもピッケルを根元まで指し慎重に越える。今回で最も緊張した箇所だった。

 

     赤岳山頂を目指す            横岳石尊峰より赤岳を振り返る

 

三又峰にて残雪で真っ白の杣添(そまぞえ)尾根と合流する。30年前の3月に仲間3人と信濃川上から登った記憶がある。横岳の山頂となる奥ノ院は顕著な岩のピークで、先行者が2人いた。下りはいきなり鉄梯子となり、カニの横バイと言われる鎖場を通過、そしてやっとおだやかな道となる。硫黄岳山荘にてアイゼンをはずし、コマクサの群落で有名なガレ場を通過する。ガスに覆われた硫黄岳をケルンに導かれ喘いで登る。既に15時半となり、仲間にも疲れが見える。ここから夏沢峠まで行き、さらに雪道を下り本沢温泉到着は17時であった。疲れた体を、日本で2番目の高所の温泉で癒した。多くの宿泊者で賑やかだった。

 

5月5日(月) 曇後雨 本沢温泉〜天狗岳〜黒百合平〜渋の湯

 早朝に小屋から写真撮影のため10分歩き、硫黄岳の爆裂火口を眺める有名な「雲上の湯」に登る。ここで風呂から上ってきたばかりの30代の女性2人とすれ違う。着替え場もない丸見えの露天風呂で、実に大胆なご婦人方である。硫黄岳の爆裂火口は雄大である。太古の昔には八ヶ岳は富士山より高かったとのこと、その姿が想像される。宿に帰って朝食を済ませて7時に小屋を出発、冬季閉鎖の白砂新道をあきらめて夏沢峠へ登る。根石岳へのコースから「北八ツ彷徨」の登山となる。天狗岳の双耳峰が大きくなる頃からガスの中に入り、風が強くなってきた。根石山荘付近で視界数mのガラ場となり、東天狗への登りでは強風のためバランスを崩しそうだった。

東天狗岳から黒百合平への下山路を取る。岩のゴロゴロした道を飛びながら歩き、ガスに覆われたスリバチ池を回ると、やっと下の雪原に黒百合ヒュッテが見えてきた。雨もバラバラ降ってきたので、ヒュッテで休憩し様子を見ることにする。先行の3パーティもストーブで暖を取って天気待ちのようだ。ゆっくり昼食を取って外の様子を見るが、天気の回復は見込めそうにない。ガスの中で展望は望めないため、予定の高見石はあきらめてここから渋の湯に下ることにする。北八ツらしい広大なシラビソの森をひたすら下る。渋川の川音が大きくなると谷が開け、温泉の臭う渋の湯に到着した。15時だった。硫黄で白色の温泉につかり、ゆっくり疲れを癒す。そして酒を交わしながら、今回の山行を振り返り語り合った。

日本第2の高所にある「雲上の湯」

(感想)

 ゴールデンウィークはここ数年、残雪を求めて遠征してきた。2年前の立山、昨年の奥穂高に比べると、八ヶ岳は地味に思われるが、歯ごたえあり満足の行く登山だった。雪は北アルプスほど多くはないが、赤岳・横岳・硫黄岳の縦走はピッケル・アイゼンを駆使する場が多く緊張感があった。被写体は一級品であり、天候に恵まれてシャッターを切るのに忙しかった。登山者は少なくないが、立山や穂高ほどメチャ混みしないのも良い。そして夏沢峠からは、森につつまれた北八ツであり、しっとりした雰囲気となる。南八ツとは別の世界に入ったようで、2倍楽しめる気がする。八ヶ岳連邦は広大であり、南八ツ・北八ツと様々なコースが設定できるのが魅力だ。本沢温泉は山小屋、渋の湯は下山口の温泉と、いろいろな温泉が楽しめるのも良い。できればもっと日数をかけて楽しみたかった。今回は特に立山での失敗を教訓に、温泉の臭いを体から消して電車に乗ることを忘れないようにした(苦笑)。